第31回ハイパフォーマンス・メンブレン研究会の前回優秀演題 (透析液原液水素還元装置の開発) 発表のご報告

31回ハイパフォーマンス・メンブレン研究会の前回優秀演題 (透析液原液水素還元装置の開発-還元透析液の有用性-) 発表のご報告

 

 当院で施行している、透析液原液水素還元液による治療の発表が前回のハイパフォーマンス・メンブレン研究会で優秀演題として表彰されました。今年の同研究会で、前回優秀演題の発表のセッションがあり、開発者の柴田 猛より 透析液原液水素還元装置の開発-還元透析液の有用性- の発表がありました。以下にその大まかな概要をご紹介します。

透析患者様は血液と透析膜との接触、血液回路中の光および透析液への曝露、透析液中に抗酸化物質が喪失すること等により酸化ストレスにさらされています。酸化ストレスによって惹起された活性酸素種は連鎖的に他の物質をラジカル化し、細胞膜の変性やDNAの切断を引き起こすなど、老化や動脈硬化、心血管疾患の発症に関与しています。

一方、2007年に世界的な学術誌、Nature Medicineに水素は細胞内で抗酸化作用があることが発表されました。水素ガスはヒドロキシラジカルなどの活性酸素を消去し、還元作用を持ち、酸化ストレスによる細胞・組織障害を軽減することが解かってきました。以来、救命救急などの医療の様々な分野で水素ガスの研究が急速に進んでいます。血液透析の分野においても水の電解陰極水をRO処理して希釈水に用い、分子状水素を含有する透析液が臨床応用され有用性が報告されています。

酸化ストレスの指標の一つにOxidation-Reduction Potential (ORP), 酸化還元電位というものがあります。現行の血液透析では、血液 (ORP +30mV前後) が酸化した透析液 (ORP +200mV前後) に曝露され、血液は透析液から電子を抜き取られ、強い酸化ストレス状態にあります。そこで、透析液による酸化ストレスの防止対策として、重炭酸透析液を構成するA原液、B原液及び、希釈水 (RO) の中で、最も酸化力の強いA原液に着目し、A原液を水素で還元処理する透析液原液水素還元装置が開発されました。本装置は、A原液に水素ガスをナノバブル化し気液混合して、還元処理することで、重炭酸透析液を酸化型 (ORP +200mV前後) から還元型 (ORP +50mV前後) に改質でき、血液透析中の酸化ストレスを軽減しています。本装置による透析によって、血中のORPの改善など一定の効果が認められています。

 

ORP: Oxidation-Reduction Potential  酸化還元電位

その物質が他の物質を酸化しやすい状態にあるか、還元しやすい状態にあるかを表す指標。値が高いと酸化状態、低いと還元状態を示す。