2025年改訂版CKD-MBD診療ガイドラインは、2012年の前回改訂から約13年ぶりに改訂されました。今回の改訂では、カルシミメティクスや新規リン低下薬などの新しい治療薬の普及を踏まえ、患者ごとの病態に応じた管理目標値の設定、すなわち個別化医療(テーラーメイド医療)の考え方がより重視されています。ここでは改訂で新たに変更になったカルシウム、リン、副甲状腺ホルモン(PTH)の目標値について紹介していきます。
血液透析患者のCKD-MBD目標値
従来の目標値
血清リン(P)3.5~6.0 mg/dL
血清補正カルシウム(Ca)8.4~10.0 mg/dL
intact PTH 60~240 pg/mL
新たな目標値
一律の目標値を提示するのではなく、患者の背景(合併症や骨折リスクなど)に応じた個別化が強調されています。
血清リン(P)値: 目標範囲は 3.5 mg/dL以上 5.5 mg/dL未満 と上限が引き下げられました。また、糖尿病や動脈硬化性疾患がある場合は上限をさらに下げることが提案されています
血清補正カルシウム(Ca)値: 目標範囲は 8.4 mg/dL以上 9.5 mg/dL未満 です。日本独自のデータに基づき、前回よりも上限値が引き下げられました。
PTH(副甲状腺ホルモン)値: 上限値は intact PTH 240 pg/mL未満 を維持しつつ、下限値の設定が事実上撤廃されました(活性型ビタミンD単独使用時を除く)。特に高齢者や女性など骨折リスクが高い症例では、より低めの管理が推奨されています。
目標値の個別化の基準
1. 血清リン(P)値の個別化基準
血液透析患者の基本目標値は 3.5 mg/dL以上 5.5 mg/dL未満 ですが、以下の基準で個別化が検討されます。
目標値の上限を下げる(より厳格に管理する)基準:
・糖尿病がある場合。
・脈硬化性疾患の既往がある場合。
これらの集団では、リン値を下げることでイベントを抑制できる効率が高いことが示されています。
目標範囲を緩和する基準:
・栄養状態が悪い高齢患者:栄養状態(アルブミン値)が低い場合、リン値と死亡リスクの関連が弱くなるため、一律の制限は行わない場合があります。
・身体活動度が著しく低い患者。
2. PTH(副甲状腺ホルモン)値の個別化基準
基本的には intact PTH 240 pg/mL未満 を上限とし、症例ごとに目標値を設定します。
目標値をより低く設定する基準(骨折リスクの重視):
・高齢者、女性、低BMIの患者。
・骨代謝マーカー(ALPなど)が高い患者。
これらの集団は骨折リスクが高く、PTHをより低めに管理することが骨折リスクの軽減に寄与する可能性があるためです。
下限値の設定基準:
原則として下限値は設定されませんが、活性型ビタミンD製剤のみで管理する場合は、高カルシウム血症による血管石灰化を防ぐため、60 pg/mL以上という下限目安が設けられました。
なお、以前のガイドラインでは「P > Ca > PTH」という順序で治療優先順位が示されていましたが、今回の改訂ではPとCaの間に優劣はつけられていません。理由として、Pは慢性的な生体毒性によって長期予後に影響し、Caは急激な変動が予後に影響するという、臨床的な意味合いの違いがあげられています。臨床的にPとCaの管理は互いに連動しており、いずれも生命予後の観点から極めて重要なマーカーであると位置づけられています。
PTHの優先度はP・Ca管理の次に位置づけられています。PTHはPやCaよりも優先度は低くなりますが、決して軽視されるわけではありません。PTHを適正な範囲に管理することで、結果としてPやCaの管理がしやすくなるという側面があります。PTHに関しては、一律の目標値ではなく、患者の骨折リスク(高齢、女性、低BMIなど)に応じた個別化が推奨されています。現在のガイドラインは「P = Ca > PTH」であり、まずミネラル(P・Ca)の代謝を安定させることが治療の第一歩となります
注)低Alb 血症(4.0 g/dL 未満)がある場合には,以下の式を用いて計算される補正 Ca 値を目安として用います。
補正Ca 値=実測Ca 値+(4−Alb 値)[Payne の補正式]
